おすすめ本『よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ』 ｜ SiTest (サイテスト) ブログ

おすすめ本
『よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ』
著:清水亮
出版社:KADOKAWA　

ゲーム開発から始まり、現在はプログラム教育や、ディープラーニング用コンピュータの販売などを手がけるベンチャーであるUEI代表の清水亮氏によるディープラーニングについての解説。および清水氏と現在人工知能の分野で活躍している日本人技術者や経営者の方との対談が集録されています。

中でも特に興味深く感じたのは、人工知能研究者、東京大学の松尾豊氏との対談です。

一般にもわかりやすい解説書としてベストセラーになった『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』の執筆時から更に進化した人工知能の現状、そのなかで、遅れを取っている日本の産業がどうアプローチしていくべきかについて、の提案などについて、清水氏と話しているのですが、一番驚いたのは以下の部分です

松尾　(略)グーグルのロボットによるピッキング作業。14台横に並べて、これも深層学習と強化学習を組み合わせる学習方式なんですが、目的のものをちゃんとロボットが掴み取れる
　簡単に見えて、今までのロボットでは全然できなかったことです。どこに目的の対象物があるか認識できなかったし、どこをつかめばいいかもわからなかったんですね。

人工知能研究の世界では有名な、「モラベックのパラドックス」というものがあります。
一般的に人間に取って難しいと思われる、膨大な専門的データを分析して論理的な判断を下すようなことは人工知能にとって比較的容易であり、むしろ難しいのは、子どもでもできるような知覚と運動の制御である。という発見です。

大量のデータを瞬時に分析し判断を下すような「難しい」行動は簡単なのに対し、ごちゃごちゃいろいろな物が入っている箱から、目的の物を見つけ、落とさないように掴み方や力加減を調節して取り出すといった、人間に取って「簡単」な行動を実現させることが大変に難しい。これは、長らく人工知能の「常識」とされていました。

数千年数百年単位で人類が身につけた文字や数字をベースにした記号的なデータ処理よりも数百万年かけて進化した身体(特に手)を動かす能力の方が、機械がそれを再現しようとした時、桁違いに多い学習が必要なのです。

いままではそう思われていたのですが、すでにその「常識」を覆すほどに技術が進んでいた事を知り、私は非常に驚きました。

そのような状況を踏まえて、日本が人工知能の世界で存在感を発揮するためには、アメリカを始めとした他国にすでに大きな差をつけられているWebサービスなどの”情報路線”よりも、長年のノウハウがあり、品質に大きなアドバンテージをもつ農業やモノづくりに、人間のような作業ができるまでに進歩した人工知能を組み合わせる”運動路線”に舵をとったほうがよい。というが松尾氏の主張です。

人工知能開発では何を機械に教えるか？という人間の判断が、その人工知能の出来のほとんどを左右します。確かに、このような分野では「何が大事か、教えるべきことか」ということを知る人が多く、優れた「手」を開発できる技術力のある日本が有利です。

日本での人工知能の活用はいかに諸外国から遅れないようにするかということにフォーカスしていましたが、気がつくと日本の強みを発揮できる「次の段階」に達しているのだということを知り、これまで以上に人工知能の発展が楽しみになってきました。

このように、研究者の方が、自分の最先端を手加減抜きで語り、聞き手の清水氏が基本的事項補足するという構成で最先端をわかりやすく知ることができます。

ただ、現時点での最先端なので、人工知能の進歩のスピードを考えると、半年後には確実に最先端ではなくなっているでしょう。なので、是非今読まれることをおすすめします。

過剰な期待も、恐れもなく、ただ現状と可能性だけが語られている。一般向けの人工知能本としては最近では最もおすすめできる一冊です。

(最後のスパコン開発ベンチャーPEZYコンピュータ斎藤氏との対談が、理解はできるが信じられない感じですごかったので、是非読んでみてください。)